事業承継における信用調査情報の活用法③(全3回 連載記事)

4.事業承継における信用調査情報活用のポイント

事業承継に際しては、承継する側および承継される側の双方にとっての第一のステップとして、その相手方が信用に足り得るかどうかを把握することが不可欠である。

繰り返しとなるが、調査といっても実に多岐に渡るもので、また、どの程度深く調べるかに応じて、必要となる労力/時間/費用は大きく違ってくる。

また、公的な事業承継仲介機関を活用した場合であっても、基本的には紹介の場ということで、相手方の情報については殆ど開示されないケースも実際に生じている[1]。

また、民間の事業承継仲介会社であれば、着手金として一定の金銭が必要となるケース[2]もあり、ハードルは意外にも高い。

それでは、事業承継を考える際に、現実的な第一手として取り得る手法としてはどのようなものがあるか。以下に、≪信用調査情報活用の第一手≫として、3点を挙げる。

≪信用調査情報活用の第一手≫

  • [反社チェックの実施]
  • [企業レポート取得による経営情報の確認]
  • [インターネット検索による風評の把握]

 

まずは、[反社チェックの実施]である。

これは幾らかの費用をかけたとしても、システム等のツールを利用するか、外部の調査機関へ依頼してでも確認しておくことが不可欠である。

また、明確な反社とはいえなくとも、半グレ集団といった境界線が曖昧なケースもあり、そうした場合は〝該当せず“というチェック結果であったにも関わらず、実態は反社同等であったということも考えられる。

こうした場合に備えて、相手方と締結する各種契約書面には反社判明時の即時解約条項を盛り込み、次のステップへ進めていくことが重要である。

次に、[企業レポート取得による経営情報の確認]である。

本コラムで触れた通り、WEBサービスを利用した企業レポートの即時取得が可能であり、簡易版レポートであれば安価な費用で済む。まずはレポートを取得し、対象企業の評点や自己資本比率といった経営指標を確認のうえ、気になる点があれば詳細な調査を検討するという流れで検討を進めていくと良い。

なお、対象企業のレポートが存在しない場合や、過去の一定時期以降に更新が止まっているようなケースは要注意であり、何かしらの背景や背景があるものとして慎重な判断を要する。

具体的なデューデリジェンス[3]を進めていくうえで、こうした課題については詳しく判明してくるものであるが、デューデリジェンスの実施には各種コンサルタントや専門家へ依頼し、相応の費用が生じるもので、予め判明している問題点を予め認識しておくことで、その後の検討が徒労に終わらないよう方向性そのものを判断する材料にもなる。

3点目は、[インターネット検索による風評の把握]である。

インターネットの検索サイトで、企業名や代表者名を検索した際に、どのような結果が表示されるかを確認するというシンプルな方法である。

風評にも様々なものがあり、ライバル会社からの悪口であったり、逆に世間から高評価を受けて賞賛を得ている内容もある。

しかしながら、単に風評といっても、明らかな根拠に基づくものや、従業員や顧客からの生声である場合もあり、実態からかけ離れたものばかりが表示されるとも考えにくい。

事前に実施した反社チェックや経営情報確認において特に問題が見付からなかった場合でも、こうしたWEB上の評判を探ってみることは、本格的な検討を進めていくうえで一助にもなる。

 

5.まとめ~信頼できる事業承継支援会社とは

中小企業の後継者難を背景に、事業承継を巡る関連ビジネスは昨今活況を呈してきている。

公的支援機関である事業承継センター[4]、金融機関、民間のM&A仲介会社でも注力分野として取組みを強化[5]しており、事業承継を巡って国内は正に戦国時代の様相である。

しかしながら、戦国時代の各大名や武将がどのような命運を辿ったかを鑑みれば分かる通り、事業承継が成功し、将来安定して会社が継続するというケースばかりではないということも、よく心得ておかなければならないことである。

最近では、1つのビジネスモデル≒会社の寿命が短命化しており、次世代に継いでも意義が乏しいといった考え方を耳にすることもある。

だが、仮に既存のビジネスモデルが陳腐化しているケースであった場合でも、形を変えてビジネスを継続する可能性があるのではないか。既存ビジネスの持つ強みや資源を活かして次の時代に沿った形へと見直し、新たなビジネスモデルを構築することで、事業承継を図っていくことも十分に考えられるのではないか。

既存ビジネスの本質や社会的意義を俯瞰し、経営者の本音に耳を傾け、創意工夫を凝らした事業承継に向かって、ともに歩みを進める承継支援会社がこれからの時代に求められている。

 

[1]別コラム『中小企業の事業承継に関する課題認識~東京商工会議所 事業承継センターにおける実例より~』(全3回連載)を参照。

[2]実例として、都内某地方銀行の事業承継部門が提示した着手金は100万円であった。(2021.12)

[3]デューデリジェンスの解説:精査、買収前に行う買収対象企業の調査のこと。公認会計士、弁護士などが、買収対象企業の事業リスク、財務状況、事前情報との照合等を調査する。中小企業のM&Aにおいても、最終的な買収価格、買収条件の決定や買収の可否のため、実施されることがほとんどである。デューデリともいう。

出典元: M&A Online  https://maonline.jp/glossaries

[4]中小企業のM&Aに対応するために、1997年に大阪商工会議所が公的機関として初めて「M&A市場」を設置。1998年に東京商工会議所が「M&Aサポート・システム」、2001年に名古屋商工会議所が「M&Aサポートオフィス」を設置し、M&A支援を実施。

2011年5月の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法の改正により、『事業引継ぎ支援センター』が設置されている。

[5]新規参入例として、オリックスが2021年11月より、中小企業のM&A仲介に参入する旨を発表。

業界最大手日本M&Aセンターの上半期経常利益:+21%(2021/2020年度上半期比)、117億円。

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

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