経営企画の実務経験に基く、会社分割(新設分割)について③(全3回 連載記事)

5.事業譲渡との違い

会社分割とは異なる事業再編の手法として事業譲渡があるが、事業譲渡では前述した2つの課題に対処することは現実的に難しい。

事業譲渡では許認可の承継について認められておらず、事業を譲受する会社は新規に許認可を取得する必要があるうえ、従業員の移管に関しても、個別に同意を得る必要がある。

また、何よりも厄介であるのは、契約者や債権者からの同意も個々に取り付けなければならず、仮に事業譲渡の反対者1人でも同意が得られない場合、当該事業を完全に切り離すことが出来ないことである。

逆に、メリットとして、吸収する側(買い手)としては会社分割のような包括的な承継ではないことから、不利な契約関係や簿外債務などを承継せずに済むことが挙げられる。小規模企業等で事業規模がそう大きくなく、許認可取得に関する問題もなく、現実的に関係者の個別同意の取付けが見込めるのであれば、事業譲渡による承継も十分に考えられる。

どちらの手法が好ましいかはケースバイケースであり、重要であることは、スピード感をもって現実性のある再編プランを立案し、十分な検討期間をもって内容を吟味し、再編後の事業リスクを最小化していくことである。

筆者の経験では、経営トップによって持ち込まれた他社事業の承継に勢いよく名乗り出たは良いが、承継までの時間的余裕を欠き、また、M&Aに長けた社内人材もおらず、結果として大変な労苦を伴うケースもあった。

 

また、新設分割においては、特定の事業を分割した被分割会社のその後の経営に関しても、方針をよく検討しておかなければならない。中小企業の場合はワンオーナーの株主が引続き新設分割会社の株主になるケースが多いと思われるが、元々一つの会社であったことを鑑み、分割後も2社がお互いに協力関係を築くなどし、各々より明確になった特定分野での強みを発揮出来るようマネジメントし、着実な成果に繋げていくことが重要である。

余談ではあるが、事業売却[1]や買収の話が新聞報道のリーク等で明るみになった瞬間に、顧客や金融機関をはじめとする取引先各社から質問攻めに遭って困惑することを筆者は体験した。売買の当事者以外に、会社分割は取引先・利害関係者にとっても、重大な影響を与える経営判断であるということを十分に認識し、誤解や混乱を招かないよう冷静に努めることが求められる。

 

6.まとめ~事業承継の形と求められる承継支援会社のあり方

中小企業の後継者難を背景に、事業承継に関連するビジネスは益々活発になってきている。最近では、ネット仲介のM&A専門会社[2]も現れ、右肩上がりに成約件数・収益を伸ばしているようである。

また、事業承継に伴って貴重な経営資源[3]が他のエリアへ流出してしまうことを危惧し、地域を絞った優良企業囲い込みによる事業承継に取組む動き[4]もあり、加えて経営塾を通じて優良企業を育成しようとする手厚いサポートサービスを提供している承継支援会社もある。

これらは正に時代のニーズを汲んだもので、今後益々その存在意義は高まっていくであろう。

しかしながら、事業承継とは、継承する経営者や買収先が見つかれば済むというものではなく、地域で囲い込むことが本当に望ましいかについても、ケースバイケースであろう。

事業承継の形にこれといった定型はなく、その企業に応じて千差万別であり、承継支援の会社の経営スタンスも各社それぞれであるこということを認識しておかなければならない。

仮に、経営状態が芳しくない企業であっても、強みを持ち好調な一部の事業について継続を目指して承継することで、有望事業の存続を図り、全社廃業といったケースを避ける可能性もあるのではないか。

こうした盲点になりがちなことに着眼することで、会社分割は実際に機能し得るのではないかと考えられる。

 

また、承継した時点がゴールではなく、承継後の会社経営(PMI)[5]こそが、承継したビジネスにとって、新たなスタート地点でもあるとも言える。

誰もが納得のいくWIN-WINの形での事業承継を実現するには、各種専門家と緊密に連携し、事業の本質を見据えて伴走支援する良きパートナーが必要となる。

また、事業だけではなく、保有する不動産や金融資産の承継・相続、税金対策といった課題についても包括的に捉えて、実効性のある具体的な対策を講じていくことが重要である。

経営者の実に多岐に渡る悩みに関する相談に親身になって応じ、より良い将来のあり方を共に考える〝伴走型 承継支援会社“こそが、今の時代に求められている。

 

 

[1]守秘義務のため詳細は記載出来ないが、筆者は2018年、大型の事業売却案件に携わった。

[2]例として、M&Aサクシード、バトンズ、トランビ社

[3]企業に関する、人、物、金の3つが代表例

[4]例として、地域特化型M&Aプラットフォーム「ツグナラ」。https://tgnr.jp/

[5]PMI・・・Post Merger Integrationの略。M&A後の経営のこと。

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

 

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