経営企画の実務経験に基く、会社分割(新設分割)について②(全3回 連載記事)

3.注意点① : 許認可・免許等への対策

会社分割で承継した事業の許認可には、(1)所轄官庁へ届出を行なえば承継できるもの[1](2)その都度許可を得ることが必要なもの[2](3)原則として自動的には承継できないもの[3]、の 3ケースが考えられる。会社分割で包括承継されるといっても、事業を営む大前提である許認可については個別に確認しなければならないという点は、特に留意しておくことが必要である。

新設分割の場合には、分割の効力発生日まで新設会社が存在しないため、許認可の取得申請が出来ず、会社分割の効力発生日からスムーズに事業移管を行えない可能性があることは業績にも直結するため、分割スケジュールに不備が無いか、入念な確認が必要となる。

許認可の承継もしくは速やかな取得が困難と思われる場合、実務テクニック的には、新会社を先に設立しておき、必要となる許認可については必要な資格者等の必要要員を先行配属し、所轄行政窓口へ相談のうえ、許認可を予め取得しておくといった方法も考えられる。

これは実態として新設分割ではない「吸収分割」に該当するもので、どのような手法によって分割承継するかについては、移管対象事業の実態を鑑み、計画的に進めていくことが重要である。

なお、東京都においては、令和2年10月、建設業許可に関する会社分割に関する制度が新設[4]された。この新制度により、会社分割を行う場合に予め事前の認可を受けることで空白期間を生じることなく、分割を承継した会社が分割会社における建設業者としての地位を承継することが出来るようになっている。

但し、この認可を受けるためには、専任技術者の設置等、分割会社が建設業の許可要件を備えていることが前提である。

また、地位を承継するということは、過去の実績を承継することに他ならないが、過去に受けた行政処分といったマイナスの経歴についても当然に承継することであり、新設によって過去の負の履歴を消すようなことも出来ないことも踏まえておかなければならない。

 

 

 

4.注意点② : 従業員への対応

会社分割においては、締結される分割契約の定めに従い、分割会社の権利・義務が承継会社等に包括的に承継される。従業員の労働契約についても事業同様そのまま承継されるが、会社分割時に伴う労働者保護のため、労働契約承継法[5]が存在する。

◎労働者契約承継法における主な定め

① 労働者及び労働組合への通知について

② 労働契約の承継について

③ 労働協約の承継について

④ 労働者の理解と協力を得る手続についての規定

筆者が実際に会社分割に関わった際は、会社分割の実施について告知のうえ、対象となる従業員を集めて説明会を実施し、労働契約承継法に関する内容を説明のうえ、一定期間、対象従業員からの異議申し出を受付けする旨を説明した。

当時、当該事業に関わる同一グループ会社からの出向社員も対象になるのかといった回答が難しい質問もあったが、専門家へ相談のうえ、会社分割契約書に定めた関連条項の説明に加え、先方の買い手企業にも確認し、会社分割実施の趣意について十分に説明し、結果として納得を得ることが出来た。

実際に、一体この先どうなるのかと不安の声を寄せる社員が数多くいたことを振り返ると、 いかに対象従業員への懇切丁寧な説明が重要であるかを痛感した。

トップシークレットとして扱われる会社分割が明らかになると、当然その従業員は不安を抱き、様々な憶測が飛び交うこととなる。中には、会社都合で勝手に他社へ売られるのかという疑念から、業務へのモチベーションを失ったり、退職を考える社員も出てくる可能性すらもある。

本法令に定められた事項を遵守するのは当然のこと、不安を取り除くべく人事部等と協力し、対象者に対し十分な説明を行なうことが不可欠である。

 

 

[1]東京都都市整備局HP内 建設業許可手引 ~IV 事業承継等に係る認可の制度 P.95を参照~

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kenchiku/kensetsu/kensetsu_kyoka_tebiki3.htm

https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/kenchiku/kensetsu/pdf/2107/R03_kensetsu_tebiki06.pdf

[2]厚生労働省HP内 労働契約承継法全文 参考リンク:https://www.mhlw.go.jp/general/seido/toukatsu/roushi/01a.html

[3]届出によって承継できる許認可の例:浴場業、興行場営業、美容業など。

[4]個別の許可を得る必要がある例:ホテル・旅館業、一般貨物自動車運送事業など。

[5]新たな許認可の取得が必要となる例:貸金業、宅地建物取引業など。

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

 

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