事業承継における信用調査情報の活用法①(全3回 連載記事)

事業承継の検討を進めるに際しては、承継する側/承継される側ともに、相手方が十分な信用に値するかどうかを予め確認しておくことが重要である。

では、一体どのように相手方の信用に関する情報を取得したらよいのか。情報を取得する方法にはどのようなものがあるのか。

本コラムでは信用調査情報の活用法として、筆者が実際に信用調査に関連する業務に携わった経験を元に、ポイントを解説する。

 

事業承継においては、各分野の専門家を交えて検討を行い、承継に関する手続きを進めていくことになるが、その前提として、承継対象となる事業者や、承継候補者に関する信用情報を確認しておくことが不可欠である。

信用情報の代表的なものとしては、与信の他、反社勢力に関する該当の有無が挙げられるが、その他にも経営状態に関する情報や代表者の人物に関する情報等、実に広範に渡っている。

目的に応じて調査の手法や深堀りの度合いは大きく異なってくるが、本コラムでは、事業承継の検討に際して心得ておきたい信用調査情報の活用法について解説する。

 

1.信用調査情報とは

信用調査情報とは、取引をする相手方に関して問題がないかどうかを事前に知っておくための客観的な各種調査等に基く情報のことである。

信用調査の身近なものとして、住宅や物品をローンで購入する等の際に利用される、与信に関する調査[1]があるが、これは主に個人の支払い能力を査定するために利用されるものである。

事業承継や会社のM&Aといった場合は、支払い能力を示す与信のみならず、企業や経営者に関わる多角的、総合的な観点から情報を集約して十分に相手方を見極め、是非判断を行なうことが必要である。

中でも特に重要となるのが、相手方が反社会的勢力(反社)に関係していないかの確認である。

反社とは暴力団などが経営する企業または人物のことで、暴力団が資金を得るため、多くの場合、その事実を隠して企業活動を行って一般の企業に接触しようとしており、注意が必要である。

2007年、「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針[2]」が定められ、指針には「反社会的勢力による被害を防止するための基本原則」として、以下5点が明記されている。

反社会的勢力による被害を防止するための基本原則

1.組織としての対応

2.外部専門機関との連携

3.取引を含めた一切の関係遮断

4.有事における民事と刑事の法的対応

5.裏取引や資金提供の禁止

この原則に基づき、全国の各地方自治体でも暴力団排除条例が施行され、各種契約書の雛形においても標準として排除条項[3]が盛り込まれ、相手方に暴力団等の反社会的勢力でないことや、反社会的勢力と関与しないこと等を表明させ、万が一違反であった場合には即時契約解除といった扱いをすることが掲げられている。

しかしながら、反社に該当しないことの確認は当然のこととして、相手方が事業を営む法人といった場合、どのような手法を用いて具体的に何の情報を取得し、確認を行えば良いのであろうか。新規取引先の場合、単発的な取引であっても神経質にチェックを行うであろうが、ましてや事業承継といった相手方の地位を引継ぐケースにおいては、事前の調査漏れは絶対に許されないもので、万全な対策が必要となる。

 

2.信用調査情報の取得の方法

信用調査情報は、具体的にどのような方法で取得すればよいのか。

一口に信用調査情報といっても多岐に渡るもので、範囲が限定されるものではない。

特に事業承継のように後戻りが許されない取組みにおいては万全を期すため、あらゆる情報を事前に得ておきたいところであるが、現実的にはかなり難しいというのが事業承継に携わる方々の本音であろう。

時間的制約もある中で効率的に検討を進めていくうえで重要なことは、(1)最低限取得すべき基本情報(2)検討の中で更なる深掘りが必要となった場合に取得する追加情報、の2段階のステップに分けて捉えることとし、まずは基本情報の取得を通じて、対象の企業や人物の全体像を明らかにすることである。

まず、(1)最低限取得すべき基本情報に関して、筆者の経験を踏まえたお勧めの方法を説明する。

企業情報に関しては、世間的にもよく知られた信用調査会社[4]が保有するデータを、商業登記簿の取得と合わせて、各社より取得(購入)する方法がある。

注意しなければならないことは、小規模な企業などでは肝心の調査レポートが揃っておらず、個別に調査を依頼することが必要になるケースもある得る[5]ことである。

信用調査会社は世の中の企業各社に対して、毎年、決算情報等の提供依頼をして情報入手に取組んでいるが、依頼しても回答が無い、インタビューにも応じてもらえないといった理由で情報そのものが存在しないというケースもある。

個別の訪問調査を依頼すると、費用的にもかなり高額になってしまううえ、そもそも普段から情報開示に非協力的な会社が訪問に応じてもらえるとも思えず、企業情報が存在しない場合には注意を要する。

また、企業情報を信用調査会社から直接購入するのでなく、簡易的な情報[6]でも可いうことであれば、インターネットのWEBサービスを通じて即時取得する方法もある。但し、前述の通り、情報自体が存在しないといったケースもあるので、その場合には個別に調査依頼を行うなど、専門の調査会社へ相談するといった対策が必要となる。

次に、反社および人物の調査に関し、調査会社の多くが実施しているものは、過去の官報や新聞報道等のメディア情報をデータベース化し、対象の人物や企業が該当するかどうかを確認するという手法である。

専門の調査会社へ依頼したケースであっても、調査費用が高額でなく納期も短い場合、主にメディア情報のチェックによる簡易的な調査である場合もあり、注意を要する。

また最近は、与信チェックに関するシステム・ツール[7]を企業が導入し、総務や法務部門が自前で反社チェックを行うこと一般的になりつつあるが、肝心のシステム・ツールの情報源はどのようなものであるのか、目的に対して必要・十分な情報を得られるのかを確認しておくことが重要である。

 

[1]ローンやクレジットカードといった「個人の信用」をもとに行われる金銭取引の情報を記録したもの。

代表的な信用情報機関として、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、日本信用情報機構(JICC)、全国銀行個人信用情報センター(JBA)、がある。

[2]法務省HP内:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針について

https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji_keiji42.html

[3]警視庁HP内:東京都暴力団排除条例 Q&A 契約関係

https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/anzen/tsuiho/haijo_seitei/haijo_q_a.html

 

[4]帝国データバンク、東京商工リサーチ

[5]参考:東京商工リサーチによると、同社が保有する国内企業データ数は900万件以上。

https://www.tsr-net.co.jp/questionnaire/index.html

 

[6]サービス事業者の例:@ニフティ・ビジネス  https://business.nifty.com/corporatedatabase/

 

[7]例:e-与信ナビ(リスクモンスター社提供サービス)

https://www.riskmonster.co.jp/service/e-yoshin/

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

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