相続した不動産を高く売却するための段取りとは?不動産会社との契約から引き渡しまで【不動産コラム】

皆さんこんにちは。相続コンサルタントの久保田です。

皆さんは相続財産に占める不動産の割合がどれくらいあるかご存知でしょうか?

令和5年12月に国税庁から発表された「令和4年分 相続税の申告事績の概要」では、平成25年以降減少傾向にあるものの、令和4年も土地建物が相続財産全体の37.4%を占めるとされています。

相続人様のどなたかが相続した不動産に住むのであれば売却する必要はありませんが、どなたも住まない場合は売却するか貸し出すかを選ぶことになります。不動産は売却の仕方によって価格が下がってしまったり、売主にとって条件の悪い契約となることも多いので、今回は相続した不動産を高く売るためのコツを説明したいと思います。

【大事なことは売買価格ではない】

まずは不動産の売却全体にいえることですが、不動産の売却で大事なことは契約書に書かれる「売買価格」ではなく、売却すべてが完了した後に「お手元に残る金額」だと考えています。

不動産は価格が高額なことから、通常売主は不動産を買主に引き渡した後一定期間はその不動産の不具合箇所を修繕する義務(契約不適合責任)を負うことになります。

いくら高い金額で売却できたとしても、契約不適合責任によってお手元に残る金額が減ってしまっては意味がありません。

相続した不動産は、ご両親が住んでいた相続人様にとっての実家であることが多く、その不動産で生まれ育ったものの、成人してからはご両親とは別に生活していることもあり不動産の実際の状況がわかりにくくなっていることがあります。

不動産は実際に住んでみないとわからないことも多く、不明点が多い不動産に対して契約不適合責任を負うことは相続人様にとっては大きなリスクになると思います。

もちろん何も問題がなければ負担する金額は発生しませんが、換価分割や代償分割で相続した不動産を売却する場合は、相続人様間での清算が終わった後に発生した負担をどなたがどのように負担するかという新たな問題が出てきてしまうので、より注意が必要です。

 

また、相続では被相続人様が住んでいた不動産を売却する場合、一定の条件を満たせば売却益から3,000万円を控除することができ、譲渡所得税を削減することができます。

条件の中に「売却代金が1億円以下であること。」があるため、例えば1億1万円で売却するよりも1億円で売却した方がお手元に残る金額が多くなります。

このように、特に相続した不動産では、その不動産の持つリスクや相続ならではの要因と売買条件とのバランスを分析しながら売買代金と売買条件を設定していくことが重要になります。

【不動産売却までの流れ】

次に、相続の中で不動産を売却するまでの流れをご説明します。

一般的には、相続が発生してから不動産の売却完了までは以下のようになります。

1.相続発生

2.遺産分割協議

3.相続税申告

4.相続登記(不動産の名義変更)

5.不動産仲介業者との媒介契約締結(不動産仲介業者に不動産売却を依頼する契約)

6.売買契約締結

7.引き渡し準備(土地の測量や建物の解体等)

8.引き渡し(一旦売却が完了)

9.相続人間の売買代金清算

10.譲渡所得税申告(完全に売却が完了)

相続が発生した後、まずは期限の定めがある相続税申告に向けて手続きを進めていくことになります。

その後、相続登記後に不動産仲介業者との媒介契約を締結して不動産の売却活動が始まります。

上記の流れではサラッと書いていますが、遺産分割協議・相続税申告・相続登記も初めて経験される方も多く、情報量が多くなっているタイミングで更に初めて経験する不動産売却の情報が入ってきてしまうと冷静な判断ができなくなってしまうこともあるかもしれません。

不動産売買契約書一つをとっても日常生活で馴染みのない文章が大量に記載されていますので、しっかりと売主に寄り添ってくれる不動産仲介業者を選ぶことも不動産を高く売却するポイントの一つだと思います。

また、通常相続人様間の清算は不動産仲介業者の業務範囲外となりますので、遺産分割協議で取り決めた清算はご自身で対応する必要があります。

不動産を高く売却するコツとは異なりますが、相続も不動産売却も複雑な手続きのため、遺産分割協議に沿った清算をご自身で行うとなると、ご負担が大きくなってしまうかもしれません。

【売主にとってのリスクとは】

契約不適合責任について軽く触れましたが、他にも一般的に条件付けされながら売主にとってはリスクになる条件が2つあります。

1つ目は、土地の確定測量を引き渡しまでに完了させる条件です。

確定測量とは、土地に隣接する土地所有者様と立ち会いのもと、土地同士の境界を確定する正式な測量で、買主としては境界が明確になった土地を買いたいと考えるため確定測量後の引き渡しが条件付されます。

 

ブロック塀等で境界が明確にわかり、隣地所有者様とも境界の認識が一致していれば問題にはなりにくいのですが、地価が高価な土地であればあるほど境界が1cmずれただけでも数百万円の差が出てしまうこともあります。

そのような中で隣地所有者様と境界が折り合わず確定測量ができなくなってしまうと、その土地は「確定測量ができない土地」と位置付けられ、大幅に価値が減少してしまいます。

これは売主にとっての大きなリスクと言えます。

 

2つ目は、建物を解体して更地にする条件です。

ご両親が住んでいた不動産を売却する場合、もちろん建物が建っています。

中古不動産としてそのまま買主が利用できる建物であれば解体する必要はありませんが、相続した不動産は、買主がそのまま(もしくはリフォームして)住むというよりは、建物を解体して新たな建物を建てるための土地として売買されることが多いかと思います。

その場合、建物がある状態で売却するよりも、更地で売却した方が売買代金も高額になるのですが、このときに注意していただきたい点が地中埋設物の存在です。

建物を解体する際に、重機で地面を掘っているとコンクリート片やゴミが出てくることがあります。

以前は古い建物を解体した際に出たゴミをしっかりと処分せず、地中に埋めた上にそのまま建物を建ててしまっていたため、売却のために建物を解体するとそのようなコンクリート片といったゴミが出てきてしまうのです。

現在は法律が厳しくなり、コンクリート片を含む産業廃棄物を解体の際に地中に埋めることはありませんが、昭和築の戸建の地中には何かしら地中埋設物があると思っていただいた方がいいぐらい建物を解体すると地中埋設物が出てきます。

もちろん解体で見つかった地中埋設物を処分せずに引き渡すことはできず、処分費用が追加で発生してしまうため、こちらも売主にとってのリスクと言えるでしょう。

 

【焦って売却を考えていないでしょうか?】

売却の流れで触れましたが、相続税申告が必要な場合相続が発生した翌日から10ヶ月以内に相続税申告書の提出と相続税を納付する必要があります。

相続財産の中に相続税を納付できるほどの貯金があれば不動産売却を急ぐ必要はありませんが、もし預貯金が足りない場合は不動産を売却せざるを得なくなります。

通常、不動産仲介業者との媒介契約締結から3ヶ月以内に売買契約締結になることが多く、その後1〜3ヶ月ほどの引き渡し準備期間を設けて引き渡しとなります。

この様に、スムーズに不動産売却が進んでも4〜6ヶ月の期間が必要になるのですが、相続税申告期限までに不動産を売却するとなると非常にタイトなスケジュールとなることがおわかりいただけるかと思います。

 

ここにも注意が必要で、急いで不動産を売却すると販売活動期間が制限されてしまい良い条件の買主を見つけられなくなってしまったり、売買代金が安かったり売主にとって不利な条件で売却しなければならない状況になってしまうこともあります。

 

上記のように相続した不動産を高く売却するコツは色々とありますが、そもそも相続した不動産を高く売却するためには、相続人様が焦って売却しなければならない状況にしないことが大切です。

そのためには、ご自身の相続対策として、相続税がどれくらいかかるのか、預貯金や生命保険で相続税を納税できるのかをご確認いただき、どうしても相続税納税のために不動産を売却する必要がある場合には、しっかりと相続人様に状況を共有して、スムーズに相続手続きを進められるようにしていただくことが、相続した不動産を高く売却するための一番の対策かもしれません。