不動産鑑定評価書の読み解き方 ~不動産鑑定評価書には何が書いてあるのか①~

こんにちは、不動産コンサルタントの山中です。本日は不動産鑑定評価書の読み解き方と題して、普段あまり見る触れることのない鑑定評価書の見方を書いていこうと思います。
実は一般の不動産鑑定において成果物として出される不動産鑑定評価書については、書く必要のある項目として決まったものがあるものの、その書式については、定型がないため、どの項目をどのくらい書くかは鑑定士によって異なります。
また、鑑定評価書は作成を依頼したならば、凡そ30万円ほど費用がかかってくるものなので、中々成果物を見る機会も少ないと思います。
※鑑定評価にかかる費用はどのような物件を鑑定するかで異なります。規模の大きな土地や複雑な権利関係の不動産や借地権・底地・賃料などの鑑定評価では100万円を超える費用がかかることもあります。

しかし実は鑑定士の作った鑑定評価書を無料で見られる場所があります。それは、地価公示の価格を調べる際に使用する国土交通省の「標準地・基準地検索システム」です。
URL: https://www.land.mlit.go.jp/landPrice/AriaServlet?MOD=0&TYP=0

それでは、実際に鑑定評価書の確認の仕方を見ていきましょう。
今回は調査対象とする地価公示標準地として、弊社の所在する埼玉県大宮区の住宅地域である上小町地区所在の標準地「さいたま大宮-6」を選定したいと思います。

まず上記URLを検索いただくと下記のような図面が出て参ります。

埼玉県を選ぶと下記のような図面が出てい参ります。

この図面で今回調査対象のさいたま市大宮区を選択します。
そうすると下記のような図面が出て参ります。

上記表示の中で今回調べたい対象地について、該当するところにチェックを入れていきます。

※チェックを入れずに検索すると検索結果として出てくる地価公示地の数が多くなってしまい該当する公示地を探すのが大変になります。

①地価公示を選ぶ

②調べたい年を選ぶ

③調べたい場所の用途について選ぶ

※今回は住宅地の水準を知りたいので、「住宅地」にチェック

④地価の範囲は特段指定しなくても大丈夫

⑤検索ボタンを押す

そうすると以下のように結果が表示されます。

この一覧の中で、今回の対象標準地である「さいたま大宮-6」の欄の右上の「詳細を開く↓」を押すと上記のような表示になり、
その中の一番下に「詳細表示」というボタンが現れます。
このボタンを押すと、「鑑定評価書」が表示されます。

この鑑定評価書については、地価公示用の決まった書式になりますので、項目についても鑑定士によって変わることはなく、
書かれている内容についての比較が可能です。
また、一つの標準地に対して2人の鑑定士が鑑定している点が地価公示の特徴になります。

同じ地点について鑑定していても、違った表現で書かれているので、2人分を見比べてこともありますので、
それでは、鑑定評価書の内容を見ていきましょう。
今回は鑑定評価書の1枚目について、大事な部分をピックアップして説明できればと思います。

鑑定評価書の1枚目の全体図は以下のとおりです。

色々とたくさん書いてありますが、大事な部分を見ていきましょう。
まずは項目1の部分をピックアップすると以下のようになります。

ここで大事なのはやはり鑑定評価額です。
特に単価について確認しておきましょう。

また、前年の路線価についても記載がありますので、参考として確認できます。
凡そのバランスとして、この路線価を0.8で割り戻すと鑑定評価額の単価となります。

なお鑑定評価においては、いつ時点の価格なのかを特定することは大事なことなので、
「価格時点」が記載されています。

1の項目には鑑定評価書を作成した鑑定士の名前・所属の分科会も表示されておりますので、
責任が伴う作業になります。

次に項目2の(1)部分をピックアップして見ていきましょう。

ここで重要なのは、対象不動産がある地域について、どのような住宅地域なのかが書いてあります。
共同住宅がまわりにあるのか、戸建てが多いのか、閑散としているのかなど、ここに記載されている内容からおおよその地域の雰囲気がわかります。
ちなみに「区画整然とした」という表現であれば、区画整理が行われた地域である可能性が高いです。
その他には、道路の幅員、法令上の制限などがここで分かります。

では(2)を見ていきましょう。

 

ここで重要なのは、まずは「近隣地域」という概念と範囲です。

近隣地域とは対象不動産が存する地域と比べたとき(地域と地域を比べたとき)差が全くない地域のことで、

その範囲が東西南北何メートルの範囲まで該当するかが書いてあります。

この範囲内にある不動産であれば、地域の差はないので、価格の差が出るとすれば不動産個別の差についてのみとなります。

 

次に「標準的使用」という部分についてですが、これはこの地域における読んで字のごとく標準的な土地の使用方法について書いてあります。

この地域だと低層住宅地となっており、いわゆる一般住宅が地域の標準的使用になっているとわかります。

この地域に事務所とか店舗があったら、地域の標準的使用とは異なる使われ方なので、その使用方法が一番最適かどうか疑問が出てきます。

そのような使われ方だと収益物件として捉えたときに収益性がそこまで見込めない可能性があります。

 

次に規模・地域の将来予測が書いてあります。

規模はこの地域の標準的な土地の規模がわかります。ここの規模が例えば100㎡で対象が200㎡などであれば、規模がやや大きいので、規模格差でややマイナスとなるかもしれないと見込みが立ちます。

地域の予測については、鑑定士は地域の行政的条件については精査して将来予測に見込んでいるので、新駅開業や地域の発展を見込める情報はここに書いてあることがあります。

 

では(3)、(4)を見ていきましょう。

 

ここでは「最有効使用」という部分が重要になってきます。

鑑定評価ではこの最有効使用という概念がとても重要になってきます。この部分で論文が書ける程重要です。ですが、実務上はこの部分の認識はこの地域で土地利用を考えたとき一番効用を発揮する使用方法は低層住宅の敷地なのだと認識できればいいと思います。

対象標準地の個別的要因については、地価公示の鑑定評価では、住宅地域にある土地であれば、方位を8分割の上、北を基準として、一方位について1.5%格差を見ています。

南に近いほどプラスとなります。例えば、対象不動産が東であれば、北0→北東+1.5→東+3となり、プラス3%の格差があると言えます。

なので、地価公示地の鑑定評価額を参考として、調べたい対象不動産の価格を推定するならば、地価公示地については北基準となっているので、方位を考慮して価格を考えなければなりません。

 

次に(5)を見ていきましょう。

ここではいよいよ価格について表示が出てきます。

まず一つ目が比準価格(取引事例比較法により求めた価格)について、実はこれが市場の実勢価格に近い価格となります。

鑑定評価書1枚目の最上部に記載のあった価格は、314,000円/㎡でした。

この価格と比準価格323,000円/㎡を比べると、その差+2.87%程比準価格の方が高くなっております。

後の(7)の部分でどうやってこの対象不動産の価格を決めたのか、ということを説明する部分において、比準価格を標準として、収益価格を斟酌の上決定したと書いてありますので、比準価格から少し下げて価格が決まっていることがわかります。

市場の取引事例から求めた価格が比準価格なので、実勢はこの比準価格に近い水準であると考えることができます。

なので、鑑定評価額よりも市場に近い価格を表しているのはこの比準価格の部分であるということができます。

収益価格については、比準価格と随分と階差が生じていますね。

これは、土地を買って、収益不動産を建てる想定から価格を算出しても比準価格と比べて著しく低く算出されているといことですので、

この地域に土地を買って、収益用不動産を建てることが最有効使用とは考えにくいと言えます。

 

次に(6)(7)を見ていきましょう。

 

 

(6)の部分では、対象不動産の需要者として考えられるのはどのような者なのか、また、その需要者が対象不動産を購入しようとするとき、比較対象として他の不動産を探すとき地域をどこまでの範囲で探しているのかが大まかに書いてあります。なので、この内容を見れば、土地勘の無い地域でお客様に不動産を紹介する場面があったとしても、比べる対象としてここまでの地域内で探せば大丈夫というような大まかな範囲を掴むことができます。また、標準的な土地の総額や新築戸建ての総額が書いてあります。

 

(7)の部分では上記で記載したように鑑定評価額をどのように決めたのかが書いてあります。

 

いかがでしたでしょうか、今回は普段あまり触れることのない鑑定評価書の読み解き方について書いて参りました。

鑑定評価書は読み方が分かれば、要点を読み解くことで地域の状況や不動産の相場感を掴むための情報が把握できるものとなっております。

 

次回は鑑定評価書の中でも価格の算出方法について記載のある部分について説明していきたいと思います。

他の財と異なる特性を持つ不動産の適正な価格を一般の方が求めることは非常に困難な部分がございます。不動産についてのお悩みがございましたら、一度ご相談いただければ幸いです。


■こちらの記事もおすすめです

不動産鑑定評価の考え方②【不動産コンサルタントコラム】