不動産鑑定評価書の読み方~不動産鑑定評価書には何が書いてあるのか③~

こんにちは、不動産コンサルタントの山中です。今回も前回、前々回から引き続き不動産鑑定評価書の読み方、見方を書いていこうと思います。

前々回では鑑定評価書の1枚目の読み方を書いて参りました。

前回では、比準価格(取引事例比較法)により求めた価格は、実勢価格に近い価格である。というように説明をし、その実際の算出の過程や鑑定評価書内の情報で近隣の実勢を知るうえで有益な情報がどこに書いてあるのかなどを説明いたしました。

今回は比準価格同様に具体的な価格決定手法として鑑定評価で使われている収益還元法(土地残余法)という手法について見ていこうと思います。

まず収益還元法については、1枚目の(5)の部分に以下のように記載がありました。

 

収益価格については、本件の場合もそうですが、埼玉県内の住宅地の場合その殆どの地点において比準価格よりも低く算出されていて、鑑定評価額の決定においては収益価格は重視されることなく、「比較衡量」という表現で鑑定評価額の中の比重は少なくなっています。

埼玉の市街化区域に存する住宅地域内の地価公示地であれば、鑑定評価額:収益価格の割合1:0.3~0.6程度になっていると思います。

※本件における地価公示地「さいたま大宮ー6」の鑑定評価書1枚目記載の鑑定評価額は、314,000円/㎡でした。

177,000円÷314,000円×100≒56.4%

収益価格については、比準価格と比べて低水準なことから、この地域に土地を買って、収益用不動産を建てることが需要者目線で最有効使用とは考えにくいと言えます。

 

では、具体的にどのように計算して上記価格が求められているか見ていきましょう。

まずは全体像を見てみましょう。

収益価格は上記2枚の中で求められていきます。ここで地価公示において採用されている収益還元法の中の土地残余法(とちざんよほう)について説明すると、対象不動産が更地である場合において、その土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定し、収益還元法以外の手法によって想定建物等の価格を求めることができるときは、当該想定建物及びその敷地に基づく純収益から想定建物等に帰属する純収益を控除した残余の純収益を還元利回りで還元する手法をいいます。

実際に収益価格として求められた価額以外にもこの価額算出過程が記載されているこの2枚の中には参考となる数値・情報が記載されているので、どこを見るべきか、見ていきましょう。

まずは1枚目をわかりやすいよに色分けしてみます。

赤い部分、ここには対象不動産(更地)に建てるとしたらどんな用途の建物が一番効用が高い(高い収益をもたらす)かが書いてあります。今回は「共同住宅」となっていますね。これは、この住宅地域にある標準的な土地については、店舗付き共同住宅とか事務所兼共同住宅とかそういった用途の収益用不動産よりも共同住宅(アパート)が一番収益性が高いと言っています。実際収益不動産を建てることになればその対象不動産について一番高い収益をもたらす建物については細かく検討されるべきだと思いますが、この地域の標準的な土地については「共同住宅」であると鑑定評価書には書いてあります。

また、建築面積と地積の割合からどの程度建ぺい率を消化しているのか、同じ要領で延床面積と地積の割合からどの程度容積率を消化しているのか、間取りはどうなのかなどの情報がここでは読み取れます。

※建築面積(70.02㎡)÷地積(140㎡)×100 ≒50%

※延床面積(151.20㎡)÷地積(140㎡)×100 ≒108%

※間取りは2DK(約39㎡)を想定している。

 

青い部分、緑の部分、ここでは、この想定建物から得られる収益(総収益)と家賃収入を計算するため想定した賃料の根拠について記載しています。

参考として見るべき部分は、家賃収入をどの程度に設定しているのか、またその根拠(緑の部分)について、保証金(敷金)、権利金(礼金)は何か月分を想定しているのか、権利金の運用益及び償却額を計算するためにどのような数値を採用しているのか、想定の家賃を計算する緑の部分において基準階は何階なのか等になります。

では次に2枚目について見ていきましょう。

 

まずは黄色の部分、ここには想定した共同住宅の総費用について記載されています。この部分では、経費率が何パーセントなのか、また各項目の算出にあたり採用している割合などが参考となります。例えば、修繕費であれば、建物の初期投資額の0.5%に設定されていて、維持管理費であれば年額支払賃料の4%に設定されています。

次に紫の部分についてですが、ここには建物の躯体・仕上げ・設備の割合や、耐用年数について記載がされているので、鑑定士が共同住宅(LS2階建)についてどの程度で考えているのか参考となります。例えば躯体の割合は45%で、その耐用年数は40年と見ていることが分かります。LS(軽量鉄骨)40年ですから、結構強めに見ているんだな、とわかります。

次に緑のマーカー部分ですが、これは建物への初期投資額を出すにあたって採用した㎡あたりの建築単価になります。これは軽量鉄骨170,000円/㎡ですから感覚値としては結構低く感じます。

青の部分ですが、これは「土地の純収益」になります。今までの算出の過程で、①土地建物全体の収益 ②土地建物全体の費用 ③建物の純収益 を算出し、①-②(①から②を引いて)土地建物全体の純収益を計算し、そこから③を引いて「土地の純収益」を計算しています。

この純収益をピンクのマーカー部分の還元利回りで還元して、土地の価格(収益価格)を出しています(赤マーカ部分)。

 

いかがでしたでしょうか、不動産業界ではよく使われる手法の一つである収益還元法ですが、地価公示の鑑定評価書におけるその読み解き方を説明して参りました。

鑑定評価書は読み方が分かれば、要点を読み解くことで地域の状況や不動産の相場感や参考となる各種数値についての情報について読み取ることができます。

我々は日々不動産について様々な角度から検討し、お客様のお悩みに対応しております。

他の財と異なる特性を持つ不動産の適正な価格を一般の方が求めることは非常に困難な部分がございます。不動産についてのお悩みがございましたら、一度ご相談いただければ幸いです。

 

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