不動産鑑定評価書の読み方~不動産鑑定評価書には何が書いてあるのか②~
こんにちは、不動産コンサルタントの山中です。本日は前回から引き続き不動産鑑定評価書の読み方、見方を書いていこうと思います。
前回までは鑑定評価書の1枚目の読み方を書いて参りました。
今回からは具体的な価格の決定の方法を見ていこうと思います。
前回のおさらいで、1枚目の(5)には以下のように比準価格・収益価格が書いてありました。
比準価格(取引事例比較法により求めた価格)については、実はこれが市場の実勢価格に近い価格となる旨説明いたしました。
埼玉の市街化区域に存する住宅地域内の地価公示地であれば、鑑定評価額:比準価格の割合0.96~0.99:1程度になっていると思います。
一概には言えませんが鑑定評価額より1-4%高く実勢価格(比準価格)は決まっていると言えます。
※本件における地価公示地「さいたま大宮ー6」の鑑定評価書1枚目記載の鑑定評価額は、314,000円/㎡でした。
収益価格については上記同様に埼玉の市街化区域内の住宅地域であれば大体鑑定評価額の30%~60%程度の水準に収まっていると思います。
比準価格と比べて低水準なことから、この地域に土地を買って、収益用不動産を建てることが需要者目線で最有効使用とは考えにくいと言えます。
では、具体的にどのように計算して上記価格が求められているか見ていきましょう。
まずは全体像を見てみましょう。
これではどこを見ていいのか、ちょっとわかりづらいですよね。
では説明のために色を付けてみます。
まず、一番上の段には比準価格を算出するために集められた取引事例のデータが書いてあります。
これらのデータは主なところで、所在・形状・取引された時点・地積・取引された土地の類型(更地・建付地・貸家建付地など)・土地の形状・道路との接面状況・法令上の制限について書かれていますが、情報として公開されていない部分も多くあり(取引事例は個人情報なので、特定ができないようになっています)、私たちが見られる情報としては書いてある部分についてのみとなります。
※鑑定士は全部のデータを見た上で取引事例比較法を行っています。
ですが、この限られた情報の中でも見るべきところはありますし、非常に参考になるものです。
例えば「類型」と呼ばれる項目については、「更地」の事例について見るようにしましょう。「建付地」つまり建物と一体として使用されている敷地の取引事例は、取引総額から建物の価格を算定して建物に振り分けた上で価格を出している可能性もありますので、どのような建物かわからない以上、振り分けた金額が正しいのかは公開されている情報からでは全くわかりません。なので、もともと土地のみの取引である「更地」の事例を見ることで相場をつかむ手がかりとなります。
比準価格と呼ばれる取引事例比較法を使って求める価格の出発点、スタートとなる価格は、紫の薄い色がついている部分です。
この価格に色々な係数をかけていき、ゴールの価格を導いていきます。
各取引事例についてゴールの部分まで求められたら、その価格を説得力がある事例を重要視したり、単純に平均したり、ここは鑑定士によって色々な方法があると思いますが、最終的に赤の二重線で示した比準価格として算定します。
以上述べてきた部分の注意点として、次のことが言えます。
まず、この鑑定評価書で採用されている事例で更地なのは「a」の事例だけです。
本来なら、この事例によって求められたゴールの部分の価格を相場の参考としたいところなのですが、この事例よく見ると、赤枠で囲った部分の数字が「100/121.1」となっていますよね。この121.1の根拠は薄赤の部分の数字なのですが、それは置いておいて、この121.1が意味するところは、この事例がある同じ地域の標準的な土地と比べて、この事例は+21.1%(2割以上)優れている個別性を持っているということなんです。つまりものすごく個性が強い事例なんですね。また、その個性を標準的な個性にもどすために100/121.1を掛けています(だからこの作業を標準化補正といいます)。
だからこの事例を使って求められているゴールの価格は、標準化補正によって標準的にはなっているものの、スタートではかなり個性の強かった土地から求めた価格ということで、あまり信ぴょう性がないと言えます(個性の判断は鑑定士によっても異なるので、個性が強すぎる土地の価格についての信ぴょう性はもともと標準的な土地と比べて低下してしまいます)。
もし、土地の相場価格の参考として比準価格の中でも特定の事例を使おうとしたら、標準化補正の値が100に近いものであれば、参考となる可能性が高いと言えます。
ゴールの価格を求めるためには、この他に①緑の枠で囲った部分(これは取引自体正常なものかを判断しています。ほとんどの事例で正常となっていると思います。)、②青で囲った部分(この部分は取引が行われた時と比べて、地価公示で出そうとしている価格の時点(1月1日)までにどれだけ価格変動が起こったかを時点修正率として計算しています。)、③黄色で囲った部分(この部分は事例の地域が対象不動産の地域と比べて優れているのか、劣っているのかを比べて数値化した部分です。)を掛けていきます。
いかがでしたでしょうか、不動産業界ではよく使われる手法の一つである取引事例比較法ですが、地価公示の鑑定評価書におけるその読み解き方を説明して参りました。
鑑定評価書は読み方が分かれば、要点を読み解くことで地域の状況や不動産の相場感を掴むための情報が把握できるものとなっております。
次回は鑑定評価書の中でも価格の算出方法について記載のある部分について続きを説明していきたいと思います。
他の財と異なる特性を持つ不動産の適正な価格を一般の方が求めることは非常に困難な部分がございます。不動産についてのお悩みがございましたら、一度ご相談いただければ幸いです。
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