経営企画職として取組んだ中期経営計画の見直しの実例②(全3回 連載記事)

4 必要販管費の算定

短期的な売上拡大による収益向上が望めない中で、取り組むべき対策はコストの削減である。

但し、安易にコストを低減すればいかなる結果を招くか、経営学を学んでいる方にはお分かりと思うが、『ジョーの悲劇[1]』の二の舞になりかねない。

ここでは、従来より同社の看板的な位置付けの主力商品と、後発として取扱いを新たに開始した新商品の2グループに大きく分けて捉えることとした。

新商品に関しては多岐に渡るラインナップであったが、経費面を含め専任担当者や外注先への依存度が高いという実態を鑑み、実務担当者と一緒に現状の収益性認識と今後の営業拡大見込について意見交換し、損益分岐点売上高の低下に向け今出来ることから取り掛かり、具体施策と現実的な売上見込を修正計画へ反映させることとした。

残念であったことは、外注先に対するコスト見直しについて、前任の経営企画担当を含め必要と認識していながら殆ど手が付けられていなかったことである。〝コストダウン要請など申し訳なくて出来ない“という私情が影響した面もあったようで、改めて実行力[2]の必要性を感じることとなった。

また、売上構成の過半を占める定番の主力商品については、慣習価格[3]的なものが市場で形成されており、コスト改善の余地も限られていたことから、いかに業務効率を改善できるかを修正計画の骨子とし、部門責任者と一緒に議論を深めることとした。

更に問題となったのは、同社が極めて属人生の高い処遇を実施しており、人事制度に基く翌期以降の販管費見込の算出が難しい点であった。次年度以降の計画値を算定しようにも、販管費の内で最大のウエートを占める人件費がどのような推移を見込むのか、各種引当や年次昇給といった判断要因が不明朗であったため、しっかりとした根拠を持って算出出来なかったということである。

この点は、現状の人事制度と実際の処遇との乖離については今後適宜見直していくもので、目下の収益力向上を最優先し、その他の諸課題については現段階では重視しないで良いとの意見が経営者よりあった。

問題が多岐に渡って顕在化している場合、一度に全ての課題を完全に解決しようとするのでなく、優先順位を付け、まずは最優先の課題に集中するという明快な経営者の指示を得たことで、論点が明確となり、計画見直しを推進する原動力となった。

 

5 現実的な目標設定、体制見直し

現状について分析したうえで、具体的にどのような将来像を描くことが出来るかが、経営企画職に求められる最大のテーマである。

保守的なスタンスではあったが、事業環境を鑑み、売上は現状維持という前提で、修正版・中期経営計画の具体的な策定に入った。

修正計画で基本方針として定めたことは実にシンプルで、不必要なものや過大なものを見直し、主力商品を中心に据え、営業キャッシュフローを着実に生んでいくという主意とした。

また、各部門で既に定型化されている業務についても部門長の下で見直しを行ない、退職補充の代わりに他社員による業務分担や、外注の業務委託者を活用することで、固定費を和らげるという方針で対処していくこととした。

ISO認証に基く業務手順書[4]といったものがあれば現状の業務内容も把握しやすいが、同社の実態を鑑み、箇条書きで業務項目を書き出し、個別検討するといった地道な作業にも取組んだ。

結果、特定の商品取扱を中止するという判断にも至ったが、頑張れば毎月の予算をこなすことが可能と思われる現実的な計画値を定めるに至った。

 

6 各部門長より、同意の取付け

オーナー系中小企業ということもあり、経営情報の開示にはとても慎重で、取締役を兼務する各部門長といえども、詳細な経営情報は共有されていなかった面は否めず、会社の先行きを楽観視する雰囲気すら感じられた。

しかしながら、経営計画の見直しというプロセスの中で、既存の経営計画値が現実乖離しているという認識に加え、会社そのものが決して良い状態にはないという危機感が生まれ、各部門長より打開に向けた全面的協力を得られたことは、計画見直しに際しての大きな推進力となった。

トップダウン方式で定められた計画や目標を落とすのは容易であるが、感情面を含めて問題が生まれやすい。企業規模や経営状態にもよるが、早期の検討開始の段階からキーマンとなる人物を巻き込んでいくことが、納得度の高い経営計画を策定するためのカギとなり得る。

[1] ジョーの悲劇:安易なコストカットの結果、経営資源を失い、会社・事業そのものが立ち行かなくなること。近視眼的な経営の失敗。

[2]実行力:関連する経営学における著名著書 『経営は実行 明日から結果を出すための鉄則』(ラリー・ボシディ、ラム・チャラン)

[3]慣習価格:一度この慣習価格が形成されると、それは非常に固定的なものとなる。そして多少、価格を下げたとしても需要はあまり伸びない。逆に、多少価格を上げると消費者は敏感に反応して、その需要は大幅に減る。(例 豆腐:90円、ガム:100円)

[4]ISO業務手順:ISO9001の規格要求事項(4.4項)では、会社の中にあるプロセスの相互関係と順序を明確にせよという要求があり、この要求を受けて多くの企業では業務フロー図を用意している。

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

 

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