コロナ禍における新たな取組みの事例について②(全2回 連載記事)

3.新たな取組みの事例

ここで、新たな取組みに挑戦している2事業者の事例(概略)を紹介する。

事例1) 高級食材販売事業 : 新規販路開拓

【背景】

旺盛であった訪日外国人によるインバウンド消費を取込み、高級外食店へ提供していた高級食材の需要が急減するという事態に直面した。

海外からの輸入食材についても多く取扱っていたが、コンテナ船の運航遅延もあり納品スケジュールが狂い、倉庫内では賞味期限の迫る在庫を抱え、在庫解消に向け新たな販路開拓が急務となっていた。

ECによる通信販売の販路開拓を試みるも、ECの競争は激しく、配達するための物流確保も困難で、通常の食品スーパーにおいては扱いが難しい特性の食材でもあった。

【新たな取組み】

着眼したのは、地元密着で事業を営む乳製品を中心とする宅配業者との提携であった。

普段、馴染みの薄い高級食材を一般家庭でも味わえるよう、調理のレシピを紹介する等の工夫を凝らして案内することで、実験段階を経て、新たな販路開拓へ繋がりつつある。

地元商工会議所による協力も受け、更なる販売拡大に向けた取組みを行っている。

 

事例2) 高齢者向けサービス事業 : 新商品開発~販売開始

【背景】

高齢者が定期的に通所するデイサービスの利用者が急減し、昼食として食事を提供している調理施設の稼働状況が落ち込んだ。

栄養士による管理の下、高齢者向けの低塩・低カロリーの食事メニューを立案しており、旬の食材をメニューに入れる等、品質と調理技術には強みがあった。

加えて昨今の食材の仕入価格上昇もネックとなり、タイムリーに新鮮な材料を仕入れ、安定的に販売していくことも見込みにくい状況下、そもそも自前で食事を調理し提供するという扱いそのものをどうするか、判断に迫られる状況にあった。

 

 

 

【新たな取組み】

在宅での食事ニーズを取込むべく、長期間保存のきく冷凍弁当として加工し、新商品として販売を開始した。

近年の冷凍食品の加工技術は飛躍的に進歩しており、以前であれば想像も出来なかった食材を冷凍加工し、提供することが可能となっている[1]。

但し、冷凍加工および保管設備を自前で揃えることは、設備投資も大きく、現実的に困難であり、小ロットから取扱い可能で、小回りのきく事業者とのアライアンスを模索した。

結果として、エリアは限定されるものの、安定的な顧客基盤を抱え、物流網を備えた事業者とのアライアンスに至り、他のジャンルの日用品等の物品と併せて販売することで、外出を控えがちな高齢者世帯を中心に安定的な注文を受け、好評を得ている。

 

 

4.コロナ禍におけるコンサルティング会社の活用

コロナ禍も3年目に入り、政府や金融機関によるコロナ対策の政策支援が次第に縮小に向かう中、外部環境変化の新たな火種として、円安による石油をはじめとする輸入資源の高騰、食品等の生活必需品の値上がりと、悪性インフレ(スタグフレーション)を思わせる現象も見えつつある。

家計における収入も伸び悩む中、一般的な消費者は生活防衛に意識を向けざるを得ず、この先、財布の紐が緩むとは考えにくい。

こうした事業環境の変化を一時的なものと捉え、将来的な回復を期待するのではなく、環境変化を踏まえ、事業者が主体的に事態の打開に向けた対策を繰出していくことが、事業存続と発展に向けた決め手となる。

先に挙げた農林水産省による各種支援制度も、売上の低迷する事業者を救済し延命化を図る主意ではなく、あくまで前向きな取組みを行なう事業者を側面支援しようとする内容となっている。

自社の強みを再認識のうえ、こうした各種支援策を上手く活用することで、たとえコロナ前同水準とまではいかなくとも、経営改善に向けた取組みの可能性があるのではないか。

前章で挙げた2つの事例は、コロナ禍に直面した事業者が打開に向けて検討を進める中で、経営コンサルティングを活用しながらアイデアを出し、具体化に繋がったケースである。コロナ禍が長期化し、自社だけでは解決が難しい経営課題に関する悩みを抱えている事業者の方にとって、コンサルティング会社への相談・活用は、現実的な一案である。

以 上

[1]スイーツ、エスニック料理、和食、麺類、洋食まで、多岐にわたっている。

 

参考出展元)

東京商工リサーチ 全国企業倒産状況 https://www.tsr-net.co.jp/news/status/yearly/2021_2nd.html

 

農林水産省 ホームページ

新型コロナウイルス感染症の影響を受ける農林漁業者・食品関連事業者への支援 https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/support.html

経済産業省 新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ https://www.meti.go.jp/covid-19/pdf/pamphlet.pdf

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

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