経営企画職として取組んだ中期経営計画の見直しの実例③(全3回 連載記事)
7 修正計画の策定完了
前回までにお話しした一連の過程を経て、経営幹部会議で『修正・中期経営計画』を承認し、全社員へ説明会を実施する運びとなった。
本来であれば、要員計画、設備投資計画、予測財務諸表・キャッシュフロー計算書といった内容に関しても計画に詳細を定め共有すべきところではあったが、そこは敢えて経営者との内部共有に留め、①事業環境、②営業目標および損益目標、③重点施策、の3つに焦点を絞り、全社へ伝達した。
最大公約数的に、皆がある程度納得できるという水準で具体的な計画値を定める作業は、経営者を含めて、実に骨の折れるものである。が、こうした労苦を抜きにして、長期的ビジョンの提示といったレベルではなく、3~5ヶ年を対象期間とした中期経営計画を策定し、数字をコミットすることまでの具体策を含めて語ることは出来まい。
わざわざ面倒な中期経営計画など定めず、なりでやっていけば良いのではないか、という声も聞かれたのも現実である。主に金融機関とのやりとりのために、金融機関が予め用意したフォーマットを埋める形で作成したものを経営計画として間に合わせているという中小企業のケースもある。
しかし、不透明感が深まる昨今の事業環境の中にあって、会社が目指すべきフラグを立てることは中期経営計画を定めることに他ならず、計画立案後も状況に応じて修正し、フレキシブルに対応していくことが会社の命運を左右するとも思われる。
8 本実例における、計画見直しの推進ポイント
本記事で取り上げた実例に基づき、計画見直しの推進となったポイントについて整理すると、以下の3点を挙げることが出来る。
計画見直し 推進ポイント
① 計画見直しのスケジュールと優先事項の明確化
② 取扱商品・サービスの採算性分析、会社のコスト構造分析
③ 早期段階からの部門長を巻込んだ見直しに向けた取組み
まずはスケジュールを作成し、3カ月程度の期間で修正計画をまとめ上げた点である。
細かい点に着眼して停滞してしまっては計画自体をまとめ切れない、時間との勝負といった面もあり、先送り可能と判断出来る課題を選別し、優先すべき課題を絞り込んだことである。
次に、大くくりとなっていた商品毎の採算性分析を販管費配賦を含め可能な限り精緻に実施し、商品毎の収益性を明らかにしたことである。結果として、採算性の悪い商品は取扱いをやめることを含めた具体的措置にも繋がり、全社的な収益力は改善した。
当たり前だが、新商品導入や人材採用で会社のコスト構造は大きく変わってくるもので、定期的に監視・検証していなければ、収益源と考えていたものが思わぬコスト源と化してしまうことにもなりかねない。先行投資として短期的な収益を求めない位置付けであれば、具体的な期間や金額を設定し、収益化の見込みが立たなければ最終的に撤退するという判断も必要である。
3点目に、最も大事なことであるが、計画見直しの早期段階から各部門長を巻込み、各々多くの議論を通じて、自発的な創意工夫のアイデアを出してもらうといった過程を経たことである。会社の経営資源の内でも最も大切なものは人であり、現業を束ねる責任者の部門長を抜きにした計画見直しは到底なし得ないということを痛感した。
9 まとめ~経営計画作成・見直しに求められるコンサルティングのあり方
金融機関や他のステークホルダーへの情報開示の必要性など、企業が経営計画をどのような位置付けとするかによって、経営計画のあり方は大きく異なる。
たとえ経営計画とまではいかなくとも、自社の経営課題を踏まえ今後の経営方針を立てることは重要で、簡便に現状整理しやすいツールとして、内閣府が提示する「経営デザインシート[1]」が存在する。こうしたツールを元に、将来の事業承継や、金融機関による事業性評価融資[2]を含め幅広く将来構想を巡らせていくという方法も考えられる。
だが現実的に、経営者だけでは中々こうした取り組みを行なうことが難しいケースもあり、気軽に親身になって相談に乗ってくれるという相談先があれば・・・というのが本音であろう。
各分野の専門的見地からの助言という内容に留まらず、会社が向かうべき道標を経営者と一緒になって模索し、全社収益の向上に向けて共に歩む、正に〝伴走型コンサルタント“が、今の時代に求められているのではないだろうか。
[1]経営デザインシート:内閣府・知的財産戦略推進事務局が2018年にリリースしたもので将来を構想するための思考補助ツール。1枚でビジネスモデルが俯瞰できる。内閣府作成の参考資料URLは以下の通り:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/2020/dai4/siryou3.pdf
[2] 事業性評価融資:金融機関が融資を検討する上で、企業の今後の事業内容や成長可能性などを適切に評価すること。
執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)
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