経営企画職として取組んだ中期経営計画の見直しの実例①(全3回 連載記事)

経営企画経験実話。中途入社した老舗中小企業の経営企画職において、直面した課題とは何であったか?中期経営計画の見直しを推進した実例に基づき、経営計画策定時に陥りやすい課題と解決のコツについて考える。

 

筆者は、1部上場企業のグループ会社を含めて10年以上の経営企画職としての経験がある。

経営企画の業務は広範多岐に渡るが、中でも重要なものが、中期経営計画の策定である。

本コラムでは、筆者が実際に経営計画職として中途入社し、計画見直しを行なった企業における実例を取り上げ、どのような点に留意して計画見直しを推進したかを説明する。

なお、守秘義務の関係より、業界や社名等は一切を伏せさせて頂きます。

 

1.経営企画として入社した経緯

そもそも経営企画は社長・経営者が担う業務そのものであり、通常、その会社のエース級人材が担うべきもので、わざわざ中途で採用するという企業は滅多にない。人材エージェントと話をしても、経営企画求人の多くが〝流し[1]“と呼ばれるものであり、それ故、採用の機会にすらめぐり逢わないというのが正直なところである。

筆者は家業を手伝って時間に余裕があった折、たまたま登録していた人材紹介会社より是非ということで、中小企業ではあるが半世紀以上の歴史を持つ老舗企業へ、経営企画職として入社し、同社の経営計画の見直しに携わることとなった。

 

2.経営課題の所在

入社前の人材紹介会社の情報では、同社の経営企画部長が一身上の都合で退職するため後任が必要とのことで詳細はよく分からないとのことであったが、実際に会社の決算数値や、既存の中期経営計画を目にしてみると、驚くべき内容が浮かび上がった。

 

中期経営計画における問題点

①財務が傷んでいるにも関わらず、営業・損益計画、要員、設備投資含め、積極経営を目指すスタンスであった。

②コスト構造分析が不十分であり、取扱商品の収益性が正確に把握されておらず、全社的な利益底上げに対してのロジックが不十分であった。

③最初に目標利益・営業成果ありきの計画で、重点方針および具体施策が不明朗であった。

 

率直に言えば、上記の経営計画における諸問題の他にも様々な問題点が存在したことも事実であるが、ここでは本稿のタイトルが示す通り、中期経営計画の見直しに焦点を絞り、どのような改善策を折り込み、修正計画の策定に至ったかを取り上げる。

喫緊の課題であったことは、上記①の通り、既に財務が痛んでしまい、あまり悠長なことを言っていられない、早い時間軸で収益力向上を進める必要があったことである。

経営者もこの点を十分認識しており、早期黒字安定化に向けて、まずは実態と乖離してしまった計画の見直しを早期に行うことが必要との指示を受けた。

 

3.商品別利益率の算定

まず、社内システムより出力した過去1ヶ年のデータを元に、商品別売上/原価構造の明確化に取り組んだ。

従来より同社では他社との差別化を意識して取扱商品を増やすという施策に取り組んできたが、専門性が必要といった事由で比較的高コストの人員を採用したり、現場の要望に応じて多様なツール[2]を積極的に導入してきたことで、コストが必要以上に膨らんでいることは感覚的にも明白であった。

売上・利益を管理するシステム[3]は存在していたが、システム上では、商品コードと関連数値を紐づけるといった画一的な配賦であり、直接費(直接原価、直接間接費)以外の費用(間接原価、販売管理費・一般管理費)への 影響がある個別性・属人生の高い商品は、システムが示す通りの粗利ベースの収益性をそのまま信用することも出来ず、正にビッグデータの分析が必要とされる場面であった。

システムより掃き出しした基礎データを元に、エクセルの『ピボットテーブル』機能[4]を使用して、慣れない機能に戸惑いながらも、分析に取り掛かった。

ここで考慮したことは、販管費の配賦に際しても、原価同様の個別性を勘案したことである。

商品/事業毎の収益性分析においてよくある手法は、販管費をグロスで捉えて、売上構成比率といった分かりやすい指標で按分して配賦するケースである。事業の大まかな概況をつかむには有効だが、明らかな不採算商品が見込まれコスト改善が急務な状況においては、不十分な手法である。

ここでは管理部門へ協力を仰ぎつつ、商品と関連する間接費を個々に紐付けるという作業に取組んだ。例えば人員であれば、月間総労働時間のうち何時間を特定作業に充てたのかをヒヤリングし、商品コストへと紐付けていった。

幸いにも、社員数も多くなく、取扱商品もある程度数が限られていたため、本作業を早めに完了させ、経営者へ現状を報告すると共に、計画見直しの中心となる次の作業に取り掛かった。

 

[1]流し:企業にとって、早急に採用決定し要員を確保しようとするものではなく、『良い人がいた時点で 検討する』といったニーズに基き、中長期的観点で求人を募るもの。

[2]多様なツール:高額のライセンス・使用料が必要となるソフトウェア等、専門性の高いシステム。

[3]同社の売上管理システム:同社では大手システム会社のパッケージソフトをベースに、カスタマイズしたものを使用。主目的は、請求・入金、営業成果管理であり、商品別収益性の分析は不十分であった。

[4]ピボットテーブル:複雑な数式や特別な関数を使わずに、大量のデータの分析を可能にするエクセルのクロス集計を行う機能。クロス集計とは、2つ以上の項目についてデータの集計を行う集計方法。

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

 

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