経営デザインシートの活用について

事業承継の検討に際しては、会社や事業に関する現状を整理し、課題を認識することからスタートします。

一般的に、会社の財務内容や株式評価額といったところに関心が向かいがちですが、事業承継を前提に現状を認識するにはそれだけでは不十分であり、幅広い観点から会社の事業を見つめ直すことが必要です。

そこで役立つのが、公的機関等がフォーマットを定め、活用を提案している各種の「現状認識ツール」の活用です。

本コラムではそのツールの一つとして、内閣府が定める「経営デザインシート」を取り上げます。

 

1.「経営デザインシート」とは

「経営デザインシート」は、企業等が、将来に向けて持続的に成長するために、将来の経営の基幹となる価値創造メカニズム―資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造する一連の仕組み―をデザインして在りたい姿に移行するためのシートです。

内閣府 知的財産戦略本部のホームページでは、知財が企業の価値創造メカニズムにおいて果たす役割を的確に評価して経営をデザインするためのツール(経営デザインシート)やその活用事例等を紹介しています。

本ツールを用い、財務内容や株式評価額といった目に見える項目以外に着眼し、承継対象の事業や会社の強みや弱みを分析し、望むべき事業承継後の姿について具体的に捉えていくことで、解決すべき現状の課題をより明確かつ具体的に捉えることに繋がります。

 

2.自社の「これまで」と、「これから」を考える

事業や会社の現状と将来について様々な角度から思考することが、事業承継を含め、長期的に安定した経営を続けていくうえで重要であることは言うまでもありません。

その一つのツールである「経営デザインシート」は、思考するだけでなく、後継者といった関係者と対話するためのツールとして活用出来るように構成されています。

 

「経営デザインシート」には複数事業向けなど幾つかの種類がありますが、骨子はシンプルかつ共通するもので、事業環境の変化や将来の成長を見据えて、自社における「これまで」を把握したうえで、「これから」のありたい姿について整理するためのフレームワークとなっています。

内閣府 知的財産戦略本部のホームページでは、経営デザインシートの各種フォーマットをダウンロードすることが可能で、実際に記入された活用事例も数多く紹介されています。

中でも、経営デザインシートを活用したいが、実際に作成するのは煩雑で難しそうという方にとっては、以下に掲載する簡易版の利用がお勧めです。

自社における「これまで」と、「これから」のありたい姿、の双方を比べてみることで、具体的に何がギャップや課題で、解決に向けてどうしていかなければならないか、ということが明確になります。

勿論、このシートを作成するだけで経営上の課題が解決される訳ではありませんが、普段、日常の業務をこなすことで精一杯という状況であっても、事業や会社の将来を含めた全体像について俯瞰すること自体に大きな意義があります。

昨今の不透明な社会情勢下、自社の的確な経営方針を定めるうえでも、自社の「これまで」と、「これから」を考える機会を持つことの重要性はより高まっていると思われます。

 

3.事業承継に向けた第一歩としての活用

事業承継に際しては、株式の譲渡や納税へといった主に資産の承継に関する内容だけでなく、事業そのものへの理解を深め、将来のビジョンを含めて承継するという、まさに「事業の承継」こそが求められています。

中小企業庁の『経営者のための事業承継マニュアル』によると、事業承継を先送りしてしまう第一の理由は、「日々の経営で精一杯」となっています。

しかしながら、そもそも何が課題であるのかが不明朗な状態であっては事業承継に向けた取組みを具体的に進めていくことは難しく、進捗は望めないと思われます。

事業承継には複雑で多くの手順を踏み、長期的に取組んでいくことになりますが、まずは今の事業の現状を認識し、課題を明らかにすることが第一歩となります。

中小企業の後継者難による廃業の多発を背景に、事業承継を取巻く支援のスキームは急速に整備されつつありますが、様々な支援機関やサービス事業者がそれぞれ独自の現状認識ツールを揃えたことで、事業承継当事者にとっては〝一体どのツール使えばよいのかが分からない“、といった状況と化している面も否めないと思われます。

本コラムでご紹介した「経営デザインシート」は、その信頼性に加え、事業承継の検討に際して必要となる現状認識について、ポイントを絞って効率的に作業可能なツールとなっています。

これから事業承継を考えている経営者の方は、本シートを元に、承継候補者や承継支援会社等との対話を行ってみてはいかがでしょうか。

以 上

 

参考出展元)

・内閣府 知的財産戦略本部 「経営デザインシート」

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html

・中小企業庁 「経営者のための事業承継マニュアル」

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.html

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

 

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