事業承継支援におけるポイント ～事業承継支援人材の育成に携わる方との対話より～②（全5回 連載記事）
２． 経営者から本音を引き出すための対話
事業承継に際しては、経営者との対話を通じて、会社の商品やサービスといった目に見える形になっているものだけでなく、事業や会社の価値を生む本質となっているノウハウや企業文化等、〝目に見えないもの“に着眼し、深掘りすることで、事業や会社の真の姿を明らかにしていく過程が欠かせません。
このことは、下記のイメージ図の通り、氷山の一角に例えることが出来ます。
会社を代表する主力商品があれば、そもそも当該商品を生み出すことに繋がった背景として、どのようなものがあったのかということを考察してみてはいかがでしょうか。
例えば、「社員が自由な発想で仕事に取組み、新商品に関する斬新なアイデアを出し、社内でも真剣に議論するといった企業文化が備わっており、新商品を生み出すきっかけとなった」、という一つの仮説も考えられます。
既に売上の中心を占める定番商品として定着している場合、経営者自身としても、成功の要因について十分認識が出来ていないケースもあり得ます。
はっきりと目に見えない水面下にある本質を把握すべく、経営者だけでなく、承継支援者による客観的な意見も含めた対話を深掘りしていくことは、円滑な事業承継を推進していく中でも重要な過程となります。
それでは、こうした経営者との対話を円滑に行い、目に見えない本質を見出すためには具体的にどのような手法が考えられるのでしょうか。
ここでは、対話のポイントとして、承継支援者が経営者の本音を引き出すためにも心得ておきたい3つの着眼点を取り上げます。
【１．創業時に関すること】
創業時の背景や、創業した理由について当時を振り返ることは、事業や会社の原点を知るうえでとても有意義です。
創業時の社会・経済環境は、現在とは大きく異なっていると思われますが、今日における事業・会社の存在は、偶然の結果ではありません。
仮に、事業環境が変化し、既に当の事業が陳腐化したり競争力が低下しているようなケースでも、創業時、何に着眼して事業化に至ったのかという背景を理解しておくことは、承継後の新たな経営を担っていくうえでも、大いに参考になると思われます。
- 「●●に関する分野で困っている人の役に立ちたかった」
- 「〇〇について考えていく中で、ビジネスのヒントを得た」
こうした創業時当時を振り返った意見はとても貴重です。対話時には是非聞いてみましょう。
【２．事業環境に関すること】
一世代前と比較しても、デジタル技術の普及等によって、事業環境は大きく変化しています。
また、大規模な自然災害や近年の新型コロナウイルスによる影響の長期化等、不確実な要因による事業環境の変化も無視することは出来ません。
事業を営んでいくうえで、こうした厳しい状況（仕事量の減少や、債務の増大等）に直面することは逃れられるものではなく、経営者がどのようにして乗り越えてきたのか、また、現在乗り越えようとしているのか、対話を通じて是非知っておきたいものです。
- 「■■という事業環境変化に際して、どう方針を定めた」
- 「□□という危機を迎えたが、こうして乗り切った」
自社が危機に陥る脅威となった事例が挙げられがちですが、逆に脅威を機会として捉え、飛躍へと繋がった成功談を伺うことが出来るかも知れません。
【３．将来に関すること】
事業承継に直面する経営者は、既に年齢的に高齢であるといった背景から引退を検討せざる得ないケースが多いと思われますが、これまで精魂を傾けてきた会社の将来については強い関心を抱いています。
仮に承継を行い自身が引退した後において、どのような形で事業・会社が存続していってほしいか、対話を通じてその本音に耳を傾けておきたいところです。
- 「今後、▲▲▲▲のような会社であってほしい」
- 「将来の発展に向けて、△△△△が大切だ」
先行きの不透明な社会情勢下ではありますが、こうした将来のビジョンについて、承継支援者を含めて、新旧経営者が共有しておくことが、事業・会社がより良い方向へ進んでいくきっかけとなると考えられます。
参考出展元）
・2014年版 中小企業白書 https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H26/h26/html/b3_3_3_2.html
・中小企業庁ホームページ 事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策 https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/index.htm
・中小企業庁ホームページ 経営者保証ガイドライン https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/
執筆：GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇（企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士）
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