事業承継支援におけるポイント ~事業承継支援人材の育成に携わる方との対話より~④(全5回 連載記事)

4.承継に向けた経営改善・磨き上げ

円滑な事業承継を実現するためには、計画的な取組みが重要であることを前回のコラムでご説明しました。今回のコラムでは、計画的な取組みと一緒に考えておきたい、承継に向けた経営改善を図るための事業の磨き上げのポイントをご説明します。

【承継に際して、何がネックとなっているか】

[資料A]は、組織規模・形態別に、廃業の意向の有無について調査を行ったものです。

この結果より、規模が小さい事業者ほど、承継せずに自分の代をもって廃業することを検討しているケースが多いことが分かります。

また、法人化されている場合は、規模が大きいほど廃業の意向なしという回答が過半数であり、また、廃業するかどうか未定とする割合を含めると、廃業せず継続する可能性を模索する事業者が9割以上に上ることが確認できます。

 

[資 料A] 組織規模・形態別 廃業の意向

これらの結果から分かることは、より規模の大きい法人の場合、事業の承継に向けた検討を行っているケースが多い一方、個人事業を含めた小規模な事業者[1]では、今後の方向性そのものが不明朗で決まっていないという実態が浮かび上がってきます。

また、[資料B]は、小規模事業者の事業の引継ぎに向けて必要と考えられる支援と解決策に関する調査の結果です。後継者の確保が最多となっていますが、注目すべきは、本業の強化・業績改善が次に挙げられていることです。

[資 料B] 事業の引継ぎに向けて必要と考えられる支援と解決策(小規模事業者)

事業承継に取組もうとしても、そもそも現在の事業が不調であったり、先が見通せないといった事由で、今後の方向性を決めかねているという実態が浮かび上がってきます。

 

【承継に向けた取組みにおける着眼点】

事業承継に向けた取組みを行うに際しては、まずは現在の自社の状況について認識することが必要です。具体的には、損益や財務といった経営指標を確認していくことに関心が向かいがちですが、事業承継に向けて将来を見据えた取組みを行っていくには、それ以外の観点も重要となります。具体的に着眼したい経営指標以外の観点として、以下の項目が挙げられます。

(1) 家族関係について

(2) 株主の状況について

(3) 知的財産を含めた経営資源について

まず(1)の家族関係についてですが、小規模事業者の多くは家業の形をとっていることから、経営者の家族の状況や、事業への関りについて、予めよく整理しておくことが必要です。具体的には、現在の経営者は誰に事業を継がせようとしているのか、本人の意思はどうであるのか、承継候補となる本人が適正な資質を備えているかといったことが挙げられます。

また、株式会社の形態である場合、株式評価額は相続において重要なウエートを占めるため、税金納付や他の相続人との配分においても留意して扱わなければなりません。株式非公開株式については、上場会社の株式のように自由な売買は出来ず、その価値についても不明朗になりがちですが、会社の純資産額が多いといった場合には高額な評価額となり、相続において扱いが難しいケースも考えられます。株式の評価額や想定される納税額については専門的な分野になりますので、承継支援会社等の専門家へご相談されることをお勧めいたします。

次に、(2)の株主の状況についてですが、現在の経営者が全ての株式を保有していれば良いのですが、保有者が分散してしまっているといった場合、重要な事項を経営者だけで決定出来ず、トラブルに至る可能性も比定出来ません。具体的には、毎年提出している税務申告書に記載の株主欄を確認し、予め株式を集約しておくといった措置も必要となります。

また、事業承継を円滑に進めていくうえで軽視できないことが、(3)の知的財産を含めた経営資源に関する確認です。事業環境の激変する現在において、自社の強みを認識し、事業の磨き上げを行っていくことが、承継実施後の円滑な事業継続にも関係してきます。

 

【承継に向けた事業の磨き上げ】

収益性や価値を高めるために取組むべき事業の磨き上げといっても、具体的に何からどのように着手したらよいのか分からないケースも多いと思われます。ここでは、事業の現状認識と将来ビジョンの設定に際して、公的機関がフォーマットを定めた活用しやすいツールとして、『経営デザインシート』をご紹介します。

『経営デザインシート』は、企業等が将来に向けて持続的に成長するために、将来の経営の基幹となる価値創造メカニズム(―資源を組み合わせて企業理念に適合する価値を創造する一連の仕組み―)をデザインして在りたい姿に移行するためのシートで、内閣府 知的財産戦略本部のホームページでその活用事例が紹介されています。

本ツールを用い、財務内容や株式評価額といった目に見える項目以外に着眼し、承継対象の事業や会社の強みや弱みを分析し、望むべき事業承継後の姿について具体的に捉えることで、解決すべき現状の課題をより明確かつ具体的に捉えることに繋げていくことが可能です。事業の磨き上げとは、事業の将来ビジョンをより明確化し、必要とされる対策を今から講じていくことに他なりません。上述した家族関係や株式の状況に関する確認と併せて、今の事業について整理を行い、取組むべき課題と施策について深掘りし、検討していくことが重要です。

こうした複雑で多岐に渡る事業承継に向けた検討を進めることが自身では難しいという場合は、承継支援機関の活用を検討することも有効な一つの手法となります。承継に悩む事業者と一緒に事業や会社の現状を整理し、将来のより良いあり姿を考え伴走支援する承継支援者の果たすべき役割は、益々大きくなっています。

参考出展元)

・2017年版 中小企業白書  https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H29/h29/html/b2_2_2_1.html

・内閣府 知的財産戦略本部「経営デザインシート」 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html

 

[1]小規模事業者:中小企業基本法では、中小企業者の範囲と小規模企業者の定義がなされている。業種に応じて、常時使用する従業員数に応じて、卸売業・サービス業・小売業は5人以下である等の定義がされている。

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

 

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