中小企業の事業承継に関する課題認識 ~東京商工会議所 事業承継センターにおける実例より~②(全3回 連載記事)

【事業承継対象企業の概要】

・業種 : 食品宅配業

・設立 : 2000年

・株主・経営者 : 60代 男性

・企業規模 : 年商 3億円、社員7名、パート・アルバイト計50名

・特色 : 東京都中西部に数千件の顧客基盤を保有。

国内大手複数メーカーの宅配専用商品を軸に、幅広い食品宅配業を展開する。

信用第一とし、地域密着型の経営に取組んでいる。

 

【承継候補者の概要】

・業種 : 高齢者向けサービス業

・設立 : 2003年

・株主・経営者 : 50代 男性

・企業規模 : 近年の経営情報について非開示[1]

・特色 : 高齢者向けサービスを国内数カ所の拠点で提供。他業種の買収等、経営者は事業拡大に熱心との評判であった。

 

4 信用調査情報による裏付け

更に、信用調査が必要との判断で、承継候補の法人・代表者個人に関する情報[2]を取得し、これを確認した。結果、以下2点の懸念事項が浮かび上がった。

  • 過去のある年度決算において大幅赤字計上の後、決算情報開示を行っていない。
  • 会社が過去に行政処分[3]を受けている。

行政処分の内容そのものは軽微であったが、そもそも事業承継センターという中立的な公的機関が何らの審査もせず、承継候補として紹介されたこと自体、疑問を拭いきれないものであった。

「単に紹介の場」であると念押しされたのも、そうしたリスク判断を含め全て当事者同士の折衝に委ねるというスタンスでということであるが、守秘義務も負って外部へ相談することも容易に出来ず、扱いが難しい本件を一体どうやって判断したらよいのか、現経営者としても大いに迷い悩むものであった。

 

5 承継候補者の焦燥感

意思表明に対する返答に時間を要し、現経営者が判断に悩んでいることを察してか、承継候補者より、両社協業の提案がなされ、宅配と親和性の高い新商品の販売といった営業施策を早期に実施し、取組みを深化・推進していきたいとの提案がなされた。

具体的には、毎週幹部出席の定例会議に承継候補者も参加のうえ、新商品の営業活動報告を行うとともに、重要な経営情報について情報共有したいという大胆なもので、既に買収を決めたかのような姿勢には、違和感を感じざるを得なかった。

また、契約外でという前提で、承継完了後、役員退職金の名目で追加の対価を支払う用意がある旨の提案もなされ、心理的に揺さぶりを受ける形となった。

こうした現時点では未だ承継に手を挙げた一候補者に過ぎない立場からの前のめりの態度は、かえって不信感を抱かせるもので、承継者として不適格であると総合的に判断するしかないという結論に至った。

 

6 その後の顛末

現経営者はこうした懸念事項について、厳格な守秘義務を含む顧問契約を締結している弁護士および税理士へ相談し、双方より本件は慎重に扱うべき旨が適正という助言を得た後、承継候補者へ直接面会のうえ、表明申出については当面見送りとする旨を伝えた。

また、事業承継センターにも結果を伝達したところ、こうした判断に至った経営者の本音については担当者レベルでは同感を受けたが、中小企業の廃業件数抑制をベンチマークとする同センターの立場としては、折角紹介した今回の話が流れてしまい残念という想いも隠せないようであった。

経営者の本音-

自らの年齢の限界を鑑み、予見されるリスクについて契約上に折込んだうえで、十分な承継対価を得ることが出来れば、早めに承継しイグジットすることが賢明という考え方も確かにある。

承継を先延ばしした結果、業績が悪化して承継が出来ないまま突然廃業というケースも考えられないことはない。但し、現経営者として最後で最大の責務は、承継者を見定めること、志を含めて事業を承継してもらえる人でなければ、継がせてはならないという想いを深める結果となった。

 

 

[1]東京商工リサーチ、帝国データバンクへ照会するも、2015年度を最後に企業情報の更新はされていなかった。

[2] 東京商工リサーチの情報(法人+代表者個人)を取得。

[3] 行政処分等の情報 – 神奈川県ホームページ (pref.kanagawa.jp)

 

執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)

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