建築物の省エネ基準の概要【建築コラム】

前回、建築物省エネ法の改正に伴い、省エネ基準が適合義務となる建築物が増えることについて、少しご紹介させて頂きました。

本日は、そもそも建築物の省エネ基準がどういったものなのかをご説明いたします。

 

省エネ基準とは?

建築物の省エネ基準とは、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準です。

1.一次エネルギー消費基準

2.外皮基準

この2側面から成り立っています。

 

1.一次エネルギー消費量基準

まず、一次エネルギーに含まれるものとは、以下の通りです。

①空調エネルギー ②換気エネルギー ③照明エネルギー

④給湯エネルギー ⑤昇降機エネルギー ⑥その他エネルギー(OA機器等)

上記の①~⑥を見て頂ければお分かりの通り、人間が活動する上で発生するエネルギー(電力等)といえます。

 

一次エネルギー消費量についての基準とは、どのようなものかというと、以下の2つの一次エネルギー消費量を考え、それに対しての基準となります。

①基準一次エネルギー消費量

標準的な仕様を採用した場合のエネルギー消費量

ここでは、上記で紹介した6種類のエネルギーのうち、⑥その他エネルギー(OA機器等)は除きます。

 

②設計一次エネルギー消費量

省エネ手法(省エネ建材・設備等の採用)を考慮したエネルギー消費量 - エネルギー利用効率化設備によるエネルギー削減量

ここでは、上記で紹介した6種類のエネルギーのうち、⑥その他エネルギー(OA機器等)は除きます。

 

<省エネ手法の例>

・外皮の断熱化 ・日射の遮蔽、取得 ・ダブルスキンの採用 ・熱交換換気の採用

・調光、照明制御 ・昼光利用

・節湯型機器の採用 ・太陽熱温水器の設置 ・浴槽の断熱化

 

<エネルギー利用効率化設備によるエネルギー削減手法の例>

・太陽光発電設備の設置 ・コージェネレーション設備の設置

 

一次エネルギー消費性能(BEI)

ここで、一次エネルギー消費性能(BEI)という指標が登場します。

BEI = 設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量

この値が、1.0以下、0.9以下、0.8以下など、建物の用途と規模によって基準が定められています。

 

住宅における外皮性能基準

外皮とは、外壁や窓、屋根など、建物が外部と接している部分です。その外皮の表面積(外部と接している部分の面積全体)に対して、熱の損失量について基準が設けられています。

こちらの指標となるものが「外皮の熱貫流率」と呼ばれます。室内と外気の熱の出入りのしやすさを表します。

外皮の熱貫流率 = 単位温度当たりの外皮熱損失量 ÷ 外皮総面積

(単位温度当たりの外皮熱損失量・・・内外の温度差1℃の場合の部位の熱損失量の合計)

値が小さいほど、熱が出入りしにくく、断熱性能が高いといえます。

地域ごとに外皮の熱貫流率の基準値が設けられており、基準値以下を満たすことが求められています。

 

また、夏の冷房使用がある時期には、日射による影響を考慮する指標があります。

冷房期の平均日射取得率 = 単位日射強度当たりの総日射熱取得量 ÷ 外皮総面積 × 100

(単位日射強度当たりの総日射熱取得量・・・ 水平面における全天日射量1W/㎡あたり、住戸が取得する熱の冷房期間平均値)

冷房期の平均日射取得率の値も、小さいほど日射が入りにくく、遮蔽性能が高いといえます。

そして、外皮平均熱貫流率と同様に地域区分により基準値が与えられており、その値よりも小さい値が求められます。

 

非住宅における外皮性能基準

非住宅においては、外皮の断熱性能ではなく、ペリメーターゾーンの年間負荷係数(PAL*)によって評価を行います。

(ペリメーターゾーン・・・建物の窓際や壁際などで外光や外気に温度が影響されやすいエリア)

PAL*=各階のペリメーターゾーンの年間熱負荷 ÷ ペリメーターゾーンの床面積の合計

 

ペリメーターゾーンの熱負荷・・・以下の①~④の熱による冷暖房負荷を合計したもの

① 外気とペリメータゾーンの温度差
② 外壁・窓等からの日射熱
③ ペリメータゾーンで発生する熱
④ 換気により生じる熱負荷

 

PAL*は、地域ごと・用途ごとに基準値が定められており、その値以下にすることが求められます。

 

省エネ基準の基準値

ここまで省エネ基準とは、どういったものを判断材料にしているのかを説明してきましたが、

省エネ基準の中にも、制度が分かれて基準値があります。①→②→③の順に、高い省エネ性能を求められます。

①省エネ基準(届け出義務制度・説明義務制度)

②誘導基準(性能向上計画認定制度)

③トップランナー基準(住宅トップランナー制度) 等があります。

また、令和4年10月1日から開始予定の誘導基準の見直しについてはこちらをご参照ください。

https://www.hyoukakyoukai.or.jp/yudou_teitanso/pdf/kaisei221001.pdf

 

まとめ

本日は、省エネ基準の概要をご説明いたしました。こちらを読んで、「省エネとは何について計算しているのか」というイメージだけでも掴んでもらえれば、今後、ご自身で建物を新築される際などに専門家とお話する際に役立つかと思います。

省エネ基準を満たすことは、SDGs達成に大変重要なこととなります。ぜひ今後、既存住宅の取得もですが、特に新築を考えられる方には、より高い省エネ基準を検討して頂けたらと思います。

 

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