中小企業の事業承継に関する課題認識 ~東京商工会議所 事業承継センターにおける実例より~③(全3回 連載記事)
【事業承継対象企業の概要】
・業種 : 食品宅配業
・設立 : 2000年
・株主・経営者 : 60代 男性
・企業規模 : 年商 3億円、社員7名、パート・アルバイト計50名
・特色 : 東京都中西部に数千件の顧客基盤を保有。
国内大手複数メーカーの宅配専用商品を軸に、幅広い食品宅配業を展開する。
信用第一とし、地域密着型の経営に取組んでいる。
【承継候補者の概要】
・業種 : 高齢者向けサービス業
・設立 : 2003年
・株主・経営者 : 50代 男性
・企業規模 : 近年の経営情報について非開示[1]
・特色 : 高齢者向けサービスを国内数カ所の拠点で提供。
他業種の買収等、経営者は事業拡大に熱心との評判であった
7 本実例から浮かぶ承継支援の課題
事業承継・引継ぎ支援センターのホームページでは、あるべき事業承継の形としてとして以下の考え方が記されている。
事業承継を目的にしたM&Aは、いかに高い条件で売却するのかということよりも、いかにしてうまく会社(事業)を運営してくれる相手に託し、
会社(事業)を次世代に継いでいってもらうのかという点に力点が置かれるべきだと考えます。
本稿で取り上げた実例を通じて浮かび上がってくる課題は、経営者の望む承継に対する本音と、支援機関である事業承継センターがベンチマークとして掲げる中小企業の廃業事業者数の抑制という基本的スタンスの間には、少なからぬギャップが存在するということである。
本実例が示す通り、当初、承継に名乗りを上げた候補者の紹介がなされた際に、何らの予備的情報が与えられず、審査もなされず、全てを当事者同士の折衝と判断に委ねるという事業承継センターの姿勢について、皆様はどのように感じられるであろうか。
計画的で時間的にも経営に余裕のある企業であればまだしも、承継が差し迫った段階になってからでは、対価に魅かれる等、冷静を欠いた判断となってしまうケースも有り得るのではないか。
冒頭でも触れた通り、民間の事業承継仲介センターが仲介することで懸念される事柄を避けるための公的機関とはいえ、承継当事者にとって本当に有益となる役割は十分に果たし切れていない面も否めず、改善の余地はあるものと思われる。
8 まとめ~求められる承継支援のあり方
事業承継ニーズの高まりで、中小企業M&Aの関連ビジネスは近年2桁の利益成長[2]を続けており、新規参入業者も増えている。大手国内リース会社も着眼し、2021年11月からの新規参入を発表した。
重要なことは、(公的な事業承継センターを含め)承継支援事業者が乱立するということは、その方針やサービスレベルも玉石混合であり、依頼する承継支援会社・支援機関を見極めなければ、経営者が望むような事業承継に至らない可能性があるということである。
承継支援には、経営者の親身となってその本当の想いに応えるべく、士業を含めた各分野専門家ネットワークの活用や、経営コンサルティングを含めた〝総合力“が必要となる。
また、事業承継においては、同時に経営者からの相続や、保有財産、不動産に関するコンサルティングのニーズも発生するケースがあり、単に事業承継だけをこなせば済むというものでもない。
こうした依頼者の心を汲んだうえで、幾重にも重なる真のニーズにワンストップで総合的に対応できる承継支援会社を選択していくことが、正にこれからの〝黒字廃業多発時代“に求められることであろう。
[1]東京商工リサーチ、帝国データバンクへ照会するも、2015年度を最後に企業情報の更新はされていなかった。
[2]最大手の日本M&Aセンターの上半期経常利益:+21%(2021/2020年度上半期比)、117億円。
執筆:GSRコンサルティング株式会社 渡辺 昇(企業経営アドバイザー 1級販売士 宅地建物取引士 マンション管理士)
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